日本とお墓

第二回 日本とお墓

 お墓と聞くと、一昔前と違い、一般的な管理墓地以外に納骨堂や永代供養墓、散骨と他種多様に想像する時代になりました。そこには、墓守がいない、費用が高い、遠方でお参りに行けない、付き合いのあるお寺がない、無縁仏など、現代日本での少子高齢化や経済衰退などの社会背景が存在します。この社会背景とは裏腹に人はいつか必ず死に、遺体を生者の世界から切り離す行為を残された者が行う必要があります。私は、お墓という葬送システムとこれらの社会問題の齟齬が生じ始め、多死社会に突入した日本人が肌感で葬送文化の多様性を認めざるを得ない時代に変化していると感じています。


目次

  1. 古くからのお墓
  2. 現代のお墓
  3. 新たな価値観

−古くからのお墓−

それでは、お墓とはいつから始まったのか確認して行きます。

お墓自体は、旧石器時代の土坑やエジプトのピラミット、古墳のような存在が古くから死者を尊厳あるものとして扱ってきたことがうかがい知れます。

墓地の出現は、縄文時代にまで遡ることができ、段々と集落の外れや隣接地へ分離されることになります。有名な小野小町の九相図は、容姿端麗であった小野小町が骨になるまでを描いた経典ですが、大切な人が変わり果てて行く姿や強烈な臭いは、生活空間から切り離すことが死の穢れを切り離すことになったのです。死の穢れを切り離す行為は、公共性や社会性を担保していると考えられます。葬法としては、火葬、水葬、土葬、風葬が火葬100%へと移り行きます。宗教的観点から即刻白骨化できる火葬は清めの象徴として効果を発揮してきました。また、公衆衛生面より火葬性能の向上が進んだためと言われています。

現代日本のお墓は、明治維新以降に政策された墓地及埋葬取締規則に始まり、現在まで宗教観と相まって脈々と続いています。お墓の単位でもある「家」の始まりは、上層階層には古来より存在し、庶民の「家」の広がりは、実は庶民だけが望んだものと言うよりは、幕藩体制の支配原理である石高制が維持されたものだそうです。現代では、行政へ納める税金が世帯単位で徴収されるよう、システム上管理し易いため残っているのです。

こう言うと聞こえが悪いですが、死者の行方の醸成において大きな役割を担い、空間性、文化性、公益性、を保ってきました。

−現代のお墓−

2023年には、出生者が過去最低の75万人に対し、死者数は159万人と過去最多となりました。この数字は、静岡県の人口が消滅するのに等しい数で、これまでの「家」を基盤としたお墓システムが完全に日本にミスマッチな文化として多様化が進みます。2020年、世帯当たりの平均人数は2.21人ですが、2030年には2人を下回るとの予想を国立社会保障・人口問題研究所が発表しました。2人を下回ると言うことは、他世帯に墓守がいない場合、家主が亡くなると自ずとお墓の選択肢が消滅するのです。厚生労働省「衛生行政報告例」によると墓じまいは、この20年間で2倍を超え、鎌倉新書「お墓の消費者全国実態調査」(2024年)によると葬送先として樹木葬(48.7%)、一般墓(21、8%)、納骨堂(19.9%)、その他(9.5%)と人気が続いています。ほんの十数年前までは、一般墓が90%を超えていたのに対し、日本人の価値観が大きく変化したことがわかります。

続いて、納骨したお骨が辿る行方を見てみましょう。関東では骨壺に納めたままカロートへ納骨するのが一般的です。骨壺は、陶器製の物が多く、自然には還らず残り続けるとされています。中のお骨は、湿気や大雨などで濡れて水が溜まるケースも多く、カロートが先祖でいっぱいになった場合は、粉骨し小さくするか一部を残し、古い先祖から合祀墓で供養されることになります。しかし、ほとんどは無縁仏として最期を迎えます。身寄りのなくなったお墓には、1年間掲示板で無縁仏になる旨を周知することでお墓を解体することができます。解体後のお骨は、一部を合祀し、ほとんどを産業廃棄物として処分することになります。その結果、現代ではほとんどが灰と煙になるのだろうと想像できます。管理墓地の中には、無縁仏を海洋散骨する管理墓地もあるようです。お墓を購入する前に確認するのが良いでしょう。海洋散骨のお骨の行方については、第1回の旅するお骨を是非ご覧ください。第1回旅するお骨

また、近年では永代供養と謳っている墓地も多いですが、30年などの期限付きが一般的で、墓地や納骨堂の経営状況によっては、期限が早くやってくることも多いにあり得ます。永代供養に永遠の保証は何もないのです。

樹木葬は、墓標の代わりに木を目印にした人気な自然葬です。樹木葬にも大きく2種類あり、一つは想像のとおり、粉骨化した骨を樹木へ散骨します。もう一つは、粉骨化した骨を樹木の下に埋まっている菅に納骨する方法です。後者の大きな注意点は、お墓と同じで自然に還すことを目的とせず、無縁仏になったら管を取り出します。

−新たな価値観−

葬送の新たな時代に突入し、自身や大切な人の葬送方法について、この機会に一度家族で話し合ってみてください。

大切な人との死別は、ある日突然やってきます。その時に無我夢中のまま葬送方法が決まるケースが多く存在します。こうして多様な葬送方法の構造が明るみに出る現代で墓じまいをしてしまうのは「なんだか心苦しい」と思わせることがあるかもしれません。その何かの正体をしっかりと見定めて各々が死生観を醸成することが納得できる葬送に繋がると信じています。

私は、これまで体験してきた自然観と消防での経験が海洋散骨事業を始めるきっかけになりました。

SEA productてのひらは、自然と歴史文化が交差する神奈川県鎌倉市を拠点に自然葬である海洋散骨をご案内しています。社会課題のために葬法を選ばざるを得ないというより、新たな葬送の価値をしっかりと把握して届けられる、そんな集団を目指しています。

文 中込大樹

参考図書:神奈川県製作研究・大学連携センターシンクタンク神奈川「墓地に関する政策研究」

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