旅するお骨

第一回 旅するお骨

 第一回目は、海洋散骨の後、自然に還る骨の行方を追います。

 海洋散骨は、粉骨化した骨を海へ撒き自然に還す自然葬の一種です。自然に還るとは、具体的にどういう工程なのかを私の活動拠点である神奈川県の湘南エリアを中心に旅程を想像します。


目次

  1. 骨と海の構成
  2. 旅の始まり
  3. 3つの旅先
  4. 自然とのつながり

稲村ヶ崎公園から臨む江ノ島

−骨と海の構成–

 まず、焼骨後の骨の主成分は、リン酸カルシウムです。リン酸カルシウムは、人間以外に自然界の脊椎動物の骨や歯を形成する主成分であり、私たちを構成する大切な化合物です。

焼骨せず土葬した場合、鎌倉時代の骨が発掘され、さらには、恐竜の骨さえ発掘されることを考えると長い時間をかけて化石または土中に残ることがわかります。これらの骨や微生物、植物は、やがて人間には体感できない悠久の時を経て堆積した土砂に圧縮され、地熱により石油として自然に還ることがわかります。続いて、散骨をするフィールドである海の主成分を確認します。海は、96.5%が水であり、残りの3.5%は主に塩です。海水には、電気的に正負の構造を持ち、正側と負側に引き合い溶け出すという性質が存在します。リン酸カルシウムの場合、カルシウムイオンは、正である水素に、リン酸イオンは、負である酸素に置き換わり溶けていくのです。

江ノ島沖合での海洋散骨風景。

−旅の始まり–

 海洋散骨を施行するにあたり、海岸に骨が流れ着き事件化しないよう粉骨をする必要があります。粉骨後は、天然由来である木材パルプ使用の水溶性紙袋で包み、湿気から骨と紙を守るため、桐箱に納めて散骨当日を待ちます。散骨当日は、江ノ島や葉山などの希望場所から海況が荒れていない日に出航します。

相模湾は、江ノ島を中心に東に三浦半島、西側に伊豆半島、南に伊豆大島が存在します。晴れた空気が澄んでいる季節は、各半島を臨みながら富士山が大きく顔を出します。空気が澄む。これは、海面の蒸発が少ない寒い季節です。自ずと眼前の富士山には、真っ白な雪が覆っています。

ポイントに到着し、いよいよ散骨のセレモニーを行います。船尾デッキから紙に包まれたままの骨を海へ投下する。すると瞬時に海中へ広がり、ゆらゆらと海へ漂う骨は、白く綺麗な魂のようにも見えます。

水溶性紙が溶け出し、骨の旅が始まる。

−3つの旅先–

 海中に溶け出したパウダー状の骨は、海中に溶け出しながら魚に運ばれる、海流に運ばれる、沈澱する。大きく3つに大別されると考えられます。

ベイトと呼ばれる小魚に食べられた場合、体内で分解し魚の一部となることでしょう。また、より大きい捕食者に食べられるといった食物連鎖の中、魚種によっては遠海へ回遊し、鳥に食べられれば空を舞い、いつか自然界へ還るでしょう。そして、人間がその魚を捕食することも大いにあり得ます。

相模湾の沖合、伊豆大島付直近を流れる海流は、光の入射加減により藍色に見えることから黒潮と呼ばれ、東シナ海より日本南岸を北上しています。一方でロシアから北海道を通る寒流、親潮が太平洋を南下し、やがて二つの海流は房総半島でぶつかり東へ流れハワイの北側を通りカリフォルニアに到達します。カリフォルニアに到達した海流は、アメリカ西岸を南下し、赤道直上を通り3年程でアジアに戻ると言われています。アジアに戻った海流は、一部がインド洋に流れ込み、一部が再び黒潮として巡ります。

世界の海を、太平洋と大西洋の南北、インド洋、北極、南極の7つの海に大別します。インド洋に流れた海流は、2000年をかけて世界の7つの海で循環すると言われています。この海流循環の理由は諸説あるようで、有力なものとして楕円形である地球が赤道上に強く太陽光を浴び、温度の一極化を避けるため、南北との海水温をできるだけ均一にするよう循環するのだろうと考えられています。鍋に火をかけた水が沸騰するのと同じ原理です。

 沈澱した骨については、堆積物として岩や砂の一部として定着します。伊豆半島は、500万年前から300万年前に地殻変動と火山活動により形成されました。その際、一緒に押し上げられたのが神奈川県の丹沢山系です。航空写真の地図を見ると、丹沢山系、伊豆半島、さらに伊豆半島南西側の海中に山が連なっているのが確認できます。丹沢山系の麓では、アンモナイトや珊瑚の化石が発掘されており、太古に海中にあったことを示しています。近年では、プレート地震である能登半島地震(2024年)で90kmに渡り4mもの隆起が発生しました。私たち人間のスケールでは、見届けることは叶わないですが、沈澱した骨ついても、やがて山となり、島となり、いつかまた海に戻るのだろうと推測しています。

伊東市・大室山から眺める伊豆半島。
伊東市・大室山から眺める伊豆半島。
パウダー状の骨が海へ広がる様子。

−自然とのつながり–

 海洋散骨は、このように人と自然の関わりを体現する自然葬です。自然の一部である人間の葬送について、自身の死生観を落とし込むことが、なんて雄大な世界へ連れて行ってくれるのだろうと感じます。

SEA product てのひらは、故人とご家族が自然とつながり、結びつく架け橋となることを願っています。

お墓の中では得ることのできない、故人の次なる旅が、今この瞬間も地球に刻まれているとすると、命のときめきが終わることはないのだなと静かに歩を進めます。

写真・文 中込 大樹

SEA product てのひら

SEA product てのひらは 海と山に囲まれた豊かな鎌倉の地から 神奈川県の湘南を中心に相模湾・東京湾にて 海洋散骨をご案内します。 私達は、海洋散骨を自然との繋がりと…

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